大体、釣行前夜というものは忙しいと相場は決まっている。というのも、2,3日前に道具や仕掛けは準備するものの、前日ともなると「アレドコダ」「コレドコダ」なんてことになる。要は、わくわくしすぎて今回の釣りにまったく不必要な物まで詰め込んでしまう、いわば、小学校の遠足前夜状態なのである。布団に入っても目は爛々と輝き、眠る気配など一向になし。いい歳した大人が次の日が楽しみで待ちきれなくて眠れないのである。釣りとは実に不思議な力を持っていると、つくづく感心させられる。目覚ましが鳴る30分も前に、いそいそと寝床から抜け出し、真っ暗な玄関の前で車に荷物を積み込み、「ヨシ」と小さく自分に気合を入れて出発するのである。何が「ヨシ」なのか、どこが「ヨシ」なのか、全く分からないのだけれど、魚釣りに行くときは、とにかく「ヨシ」なのである。気合十分、船の上で準備を始めるのだが、前日、熱病にも似た恍惚と期待の中で準備したワケの分からないものを見て頭をかしげることが多々ある。自分でもびっくりしたモノ第1位は、船の上で道具箱を開けたとき、BB弾が数発入ったおもちゃのカプセルが目に飛び込んできた時である。一体、何に使う目的で入れたのか、思い出せそうで思い出せないまま、その日は終わった。