先輩たちの活躍 VOL.11

先端技術と匠の技と。

大学院工学研究科システム工学専攻修了

楊 雨庭さん(就職先 井関農機株式会社)

クルマが好き。
ただそれだけで。

自動車産業が急速に勃興し、今や世界最大の自動車市場にまで成長した中国。楊さんは、そんな中国に大勢いるクルマ好きの若者の一人だった。自動車整備士を志した楊さんは、日本で自動車の技術を学ぶことにした。中国には、「車がわかっている人は日本車に乗る」という言葉もあるのだ。はじめは自動車短期大学でクルマのメンテナンスやエンジンのしくみについて学ぶうち、これからは電気自動車の時代ではないか、もっと根本
的にクルマの制御について学ぶべきではないか、と考えるにいたり、機械システム工学科に3年次編入。阿部准教授のもとで「電動車イス」の研究に取り組むことになった。テーマは「ARマーカ追従システムの構築」。

「日本では急速に高齢化が進んでいます。中国でも、もうすぐそれを上回る超高齢化社会が到来します。当然、車イスの利用者も増えていますが、現在の交通環境は、安全と安心が確保されているとはいえません。介助者を自動追従することで、電動車イスはより安全なものになると思いました」 電動車イスにカメラを取りつけ、介助者を認識して自動で追従するシステムを構築。介助者の認識には誤差が少なく、複数の介助者を識別できるARマーカを採用した。交通弱者の安全を守るための、大きな一歩だ。しかし、楊さんは満足しなかった。

電動車イスがさらに安全になるためには路面の凹凸に対応する必要がある。自動車ならサスペンションやショックアブソーバの性能次第でかなりの段差を乗り越えることができるが、車イスではわずかな段差も急加速や転倒のリスクに直結する。楊さんは、大学院に進学して、この問題に取り組もうと思った。

技術が解決する、
人と社会の課題。

「関係する資料や先行研究の論文を精査し、そのうえに自分のアイデアを創出してシミュレーションと実機で検証する…研究は、そのくり返しです。その先に、確かな成果が見えてくる。卒業研究を通して、その手応えを確かに感じたんです。こんなにおもしろい“研究という仕事”を、1年で終えてしまうのはあまりにももったいない(笑)」
車イスが段差を乗り越えようとする時の速度とトルクの関係を正確に検出することができれば、その外乱要因を打ち消す方向で加速と減速をコントロールすることができるはず。楊さんは、電動車イスの動輪に加えて加速度を検出する5番目の車輪を設置し、未知入力オブザーバという制御理論を導入することで、この難題に挑戦した。

「理論を勉強し、電動車イスにプログラムを書き込んで実験している時に、生き物をつくったみたいで、とても楽しく感じました。システムは“愛”で進化する。私はそう思います」

楊さんの研究は、産業応用工学会の全国大会で学生賞を受賞した。修了後の就職先は、井関農機株式会社。中国に帰って就職するという選択肢は?
「それはありませんでした。ここで学ぶうちに、日本のモノづくりの精神、匠の技に、強く共鳴しました。私の研究は、新しい農機の開発にもつながります。農業のにない手が不足しているなかで、それに貢献する研究を日本の企業で進めていきたいと思います」

一人のクルマ好きの青年が、研究のなかで社会課題の解決を志し、農業や地球の未来も考えるようになる。愛知工科大学の大学院は、そういうところだ。