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機械システム工学科 講師 林寛幸/HAYASHI Hiroyuki
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月下美人の栽培を始めてかれこれ30年以上になります。この間、世話が適当になった時期も何度かありましたが、何とかこれまで全ての株を枯らすことなく栽培を続けています。それが出来たのは、やはり花自身の魅力でしょうか。純白で繊細な花びらは一夜限りで、朝にはしぼんでしまいます。あの潔さは格別です。他の植物同様に、世話をした分だけ花で応えてくれるのもうれしいです。寒さには若干弱いですが環境への対応力はピカイチです。1年から2年おきの植え替え、台風による室内への避難、冬に間の室内への取り込みと暖房設備、剪定作業、挿し木作業、定期的な肥料やりなどいろいろとやるべき仕事が目白押しですが、自分にとってはあまり苦にはなりません。写真とともに月下美人の魅力について語りたいと思います。
サボテン科クジャクサボテン属です。多くのクジャクサボテン属は、交配種が多いですが、月下美人は原種のままです。 原産地は、メキシコの熱帯雨林地帯です。うっそうと繁ったジャングルの中で、古木の幹や腐葉土やコケの層に根をおろして着生生活を送っています。花冠の大きさは20~25cm程度あります。純白で、香りを放つこと、夜間に咲くことが特徴です。真ん中に大きく飛び出した雌しべがあり、周囲に雄しべがびっしり張り出しています。なぜこれほど大きな花びらになったのかについては、熱帯雨林地方に住んでいる哺乳類のコウモリの受粉への適応のためだと言われています。ですから、花全体が頑丈な構造になっています。
日本では、鉢を使用してあんどん仕立てで栽培されることがほとんどです。実際の原生林の中での姿と日本での栽培姿はかなり違いますが、月下美人はこの原生林でたくましく生きていく術を心得ているので、どこで育てようが生育環境への適応力は特に優れており、栽培が比較的容易です。だれでも育てることが出来ます。 「月下美人は、一年に一度しか咲かない!」とか「新月の夜にしか咲かない!」と言われることがありますがそんなことはありません。条件さえ良ければ、年3回~4回咲きます。つぼみが複数ついている株の場合でも、つぼみの生育状況によって、1~2日咲く時期がずれることはざらです。
月下美人の咲く時期は、6月~10月あたりです。6月あたりに咲く一番花が一番大きな大きさです。教科書には咲かせるコツとして、水を与えないこと、肥料を切らすこと と書いてありますが、日本の気候は雨が多いことと、丹精こめて育てているため肥料は多めにあげてしまうことが多いので、咲かせる条件とは逆になってしまうことが多いです。我が家の場合、自然まかせで育てているので咲く花の数にはこだわっていません。5年くらいたった開花株なら、年間3~4回の割合でつぼみがあがってきます。しかし、つぼみは環境の変化に敏感で、特に暑すぎる日が続くと成長を止め落ちてしまします。5cmくらい以上に成長すれば大丈夫で、あとは順調に成長してくれます。
原産地が熱帯雨林なので寒さには弱く、11月の下旬から4月上旬までは、室内へ取り込みが必要です。それ以外は写真のように戸外で育てます。我が家では50パーセント程度遮光の寒冷紗を張っています。月下美人のみ栽培している場合は、冬の間は、加温しなくてもじっと耐えてくれます。月下美人は寒さにとても強いです。とは言っても、戸外では寒すぎるので室内への取り込みは必要です。春先からすぐに旺盛な生育状況にするためには、やはり加温が必要です。最低7度以上、出来れば10度の最低気温がほしいですが、なんと言っても暖房費がばかになりません。このあたりは経済性と花への愛情との綱引きになります。
月下美人はすべて開花する際に芳香を放ちます。戸外で開化する場合でも、周囲10mくらいの範囲では匂いに気づきます。「ここで咲いてるぞぉ~!」と自己主張します。原産地では、この香ばしい匂いに引き付けられて数々の動物や昆虫たちが月下美人を訪れることでしょう。 6枚組の写真は、夕方6時頃より4~5時間までの経過した連続写真です。
月下美人は下を向いていたつぼみが大きくなるにつれ、1枚目のように段々と上へ向いてきます。咲いてくれる予定日は、つぼみが大きく膨らんで、花びらの白い部分が見えてくるのでおおよそわかります。上の4枚組ではだいたい2~3時間程度経過した開花状況です。2枚目の写真は、思わず映画「エイリアン」の怪獣の口を思いだします。 花びらが満開は、午後10時過ぎから午前2時ごろまでがピークです。次に日の太陽が昇るころには、すべてしおれてしまします。昨夜の輝きが、まるで夢だったのかと錯覚するほどのひどいしおれ方です。
JR蒲郡駅から工科大学へ向かう県道383号線沿いにある『石黒自転車店』さんの庭にある月下美人です。許可を得て撮らしてもらいました。ここの花の特徴は、寒冷紗などの日陰となりうるものを全くなくて100パーセントの太陽光を受けて栽培されています。お陰で、茎節の色は黄色を含んで分厚く、つぼみの色も赤っぽくとても力強い月下美人が咲きます。
姫月下美人の特徴は、小振りながら花の数の多さと強烈な芳香です。この芳しい香りを一度かいだら忘れることがないかもしれません。また、通常の月下美人は違い、咲き誇った次の日の日中まで萎れることなく咲いていてくれることです。一度にたくさんのつぼみがつくことと、月下美人よりも開花時期が1ヶ月程度長く11月まで花が楽しめることです。ただし、冬の寒さには案外弱く、室内で7℃程度の最低気温に合ったりすると大株でも枯れてしまうことがあります。姫月下美人の生育には、冬の間は最低でも10℃の温度が必要です。
満月美人は、月下美人と姫月下美人との交配種です。月下美人の豪華さと姫月下美人の多花性とを掛け合わせた品種です。花びらの大きさは月下美人よりは幾分小さめですが、姫月下美人ほど小さな花ではないので、花の豪華さはそのままです。
歌麿呂美人は月下美人と宵待孔雀の交配種です。 歌麿呂美人は、教科書には食用できる大きな赤い実が成ると書いてありますが、今のところ実がなったことがありません。何とか実を成らしてみたいです。受粉が成功させるためには、歌麿呂美人以外の花の花粉が必要なのでうまく同時に月下美人を開化させることが肝要ですが、これはなかなか思い通りにはいきません。
上の株は、両者とも月下美人ですが、左側は日本産、右側は中国産の月下美人です。まったく区別がつきません。挿し木2年生なので、あと1年くらい経つと開花株に成長します。花の大きさや咲き方に違いがあるかしっかり観察したいと思います。でも、たぶん同じ花が咲くと予想しています。
左上: 月下美人(開花株 挿し木4年生)右上: 姫月下美人(挿し木2年生)左下: 満月美人(開花株 挿し木4年生)右下: 歌麿呂美人(開花株 挿し木5年生)
写真を見ても、どの株がどれ?と判別は難しいです。名前を書いた名札をしっかり鉢の土に埋め込んでおかないと、どの品種か迷ってしまいます。ただ、姫月下美人は茎節が分厚いので比較的判別しやすいです。
月下美人は、大株になるほど定期的な植え替えや台風などからの避難の作業が大変になります。冬の間の室内への取り込みや明るい暖かい場所も必要とするので、いったん「面倒」だと感じたりするとそれ以上の作業がおっくうになります。 月下美人のこんぶ状の葉っぱ(茎節)は特に魅力的なわけではないので、つぼみが上がってこない株などは、やがて忘れられてそのまま庭に置き去りにされることが多いのではないかと思います。しかし、同属のクジャクサボテンと比べると、はるかに育てやすく環境にも適応できます。また、生育速度が速いのはよいことですが、逆に株が大きくなり過ぎて手に負えなくなることも弱点です。 以上いろいろと弱点を述べましたが、それを差し引いても月下美人は偉大で・純粋で・孤高の・誇り高い花・であることには違いありません。 ぜひとも、月下美人に興味を持っていただき、育ててみてはいかがですか?丹精込めて花を咲かした月下美人は忘れることが出来なくなります。
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