19年度のNHKの大河ドラマの出だしは、
疾(はや)きごと風の如し、徐(しず)かなること林の如し、侵掠(しんりゃく)すること火の如し、動かざること山の如くの孫子の言葉より始まった。この武田信玄の「風林火山」を見るたび、私は日本の新幹線を思い浮かべる。新幹線の安全性、正確性、高速性、静粛性などがこの言葉がぴったりと言っても過言ではない。乗車した時の開放感、爽快感もまた格別である。
いつ頃から私が新幹線を好きになったかは定かではないが、毎日、普通?の通勤快速のJR線で蒲郡まで通っている私が、時折高速で去っていく新幹線車両を見て羨望の眼差しを抱くようになったのも自然の成り行きかもしれない。さらに詳細に観察すると、通勤途上で、中央線から東海道線に乗り換え、金山駅から蒲郡駅までの間に何がしかの根拠がある気がしてならない。 この根拠について少し述べてみたい。
地図を見ると東海道線と東海道新幹線は東京まで並行して走っている。この並行という言葉は少し語弊があるかもしれない。途中で何度も交差したり、離れたり、くっついたりしている。
私の乗車する快速電車の金山駅から蒲郡駅まででさえ何度も変化を繰り返す。まず、快速電車の通過駅である笠寺駅の手前で新幹線は頭上を交差する。その後、高架橋の高度を下げながら東海道線と寄り添うようにまったく並行して競い合う。時間にして3分間。ここが最大の見せ場である!名古屋発7:20の東京行きこだま562号の300系が瞬く間に通過してゆく。時間にして30秒足らず。
しかし、毎日この光景が繰り返すわけではない。東海道線は微妙に遅れることしばしばである。しかも、電車は相当に混んでいて立ち見となり、毎日左窓側に陣取ることは不可能である。さらに他の乗車客はそんなことには無頓着で、太陽がまぶしいのでカーテンを閉めている客が誠に多い。特に夏場はほとんど外の景色が見えない。カーテンごしに音だけを拝むこともしばしばである。したがって、この300系を一瞬でも見ることが出来た朝ときたら、非常に幸運と言わざるを得ないのである。
毎朝、いつ来るかいつ来るかと期待しつつ定刻通りに562号に出会えた喜びは、日本のJRの時間の正確さを物語るものであり、人々の希望を乗せて走るかっこいい新幹線に、どうしてそんなにおまえは速いんだい?と素朴な質問をしてみたくなる。