自動車工業学科 掛布知仁

ライダー復活!!

自動車工業学科 准教授 掛布知仁/KAKENO Tomohito

気持ちの良い日はやっぱりバイクが一番

18歳の頃、今からは想像もつかないようなバイクブームが日本中に巻き起こっていた。
鈴鹿8時間耐久レースではコカコーラを買うのに3時間待ちだったり、駐車場には見渡す限りのバイクが、それこそ一大オブジェのように並んでいたりした。
そんなバイク熱にうなされながらバイクに乗り続け、走り続けて12年、乗り換えたマシンは二十数台。

あれだけのバイク熱も、結婚を機に縁日の次の日のようなあっけない寂しさと共に自然消滅していった。

時は過ぎ、46歳。自宅のリビングで食後のコーヒーを飲みながら、独り言を言ってみる。「また、バイク乗ってみようかなあ」 自分の中では、言ってはみたところで、実は乗るつもりなんかまるでなく、ただなんとなしに時間つぶしのコマとコマをつなげる接着剤のような言葉を吐いただけだった。聞くとは無しに聞いていた家内は、これも重量感のない言葉で、「乗ってみればあ~」と返してきた。「って言っても乗れるわけないよなあ」。経済的、体力的、その他もろもろの障害がたくさんあるような気がする。

だって、まずあの頃に比べて、体力がなくなってきているし、反応速度が際立って落ちている。
・・・「スピード出さなければいいじゃん」

ローガンが進んで夜は物が見えにくいんだ。
・・・ 「夜、乗らなきゃいいじゃん」

経済的に苦しいはずだ。
・・・「小さいのにすれば安いんじゃない?」

置く場所だってないぞ。
・・・「庭の植木を整理するつもりだったからスペースは空くわよ」。

おやおや?否定する題材がなくなってきたぞ、ひょっとして「乗ってもいい」というということか!けど、最後のカウンターパンチ
・・・「自分のお小遣いの範囲でね!」

なるほど、そういうオチか。けど、一応、インターネットでパチパチと調べてみる。

すると・・・ ん?・・・ なんだよ これ?…大長江集団?!

目にしたのは、SUZUKIのエンブレムが入った、「大長江集団」という中国の会社が作ったバイクだった。
結構かっこいい。スズキの技術や設備をそっくりそのまま中国に輸出して、現地で製造しているバイクなんだそうだ。なので、大長江集団というメーカーでもスズキが名乗れるということらしい。価格は…なんとか手が届く!さすが中国製、リーズナブルな価格設定。お小遣い積み立ててよかった!あたふたしながらチェック項目を照合してみる。

スズキとあっても中国製、言ってみれば「外車」です

【車体名称 GZ125HS】

車体・・・昔のようにバキバキ走ることはできないので、ゆったりしたポジションが必要 → ◎
車格・・・小さいと他の車両に認識されずに危険である。今までに小さいバイクゆえに危ない思いもした。大きさは250ccレベル → ◎
排気量・・・なんと125cc。区分は原付2種、税金は年間1,200円。保険も、今、加入している自動車保険に「ファミリーバイク特約」を付けるだけでOK、なんと1か月600円弱 → ◎
車体価格・・・なんとびっくり24万5千円 国産のハイスペック50ccのスクーターといい勝負。加えて、パニヤケース、エンジンガード、シーシーバーは何と標準装備! → ◎◎◎
販売店・・・家から10分 → ◎

いよいよ否定する要素がなくなってきた…。もうこの頃は、引き波のように消えていったはずのバイク熱が、寄せては返す大波になっていた。そして一言。
「よーし、買うぞ!

なににつけ、納車の日はいつも朝一番と決めている。理由は少しでも長く新しい車やバイクに乗っていたいから。例にもれず、このGZ125も朝1番で納めてもらった。15年もの間、乗っていなかったので、運転できるかどうかが不安であったが、何とかエンストもせずに乗り回せた。次の日にバイクショップに注文してあったライダーズグローブを取りに行ったとき、メーターの385kmの走行距離に驚かれてしまった。けど、そのぐらい嬉しかった。ここに中年のライダーの一人がめでたく復活した。

今度はどこに行こう?
昔、走った同じルートをツーリングするもよし
好物の天ぷらそばを食べ歩いてもよし
全く知らない場所を、当てもなく走り回ってもよし
若い時のように目ん玉をサンカクにして走ることもない
あわてることはない、ゆったり、まったり走ってゆこう